- 2006年6月15日 (木)
阿川弘之全集6
職業軍人ではない、一般大学を卒業した予備士官として太平洋戦争に関わった若者たちが描かれた小説。(注:作者の阿川弘之自身かつて海軍予備士官として従軍。私はこの本を読みながら、昔読んだ『きけ わだつみのこえ』を思い出しました。)個人々々がそれぞれの想いを抱きつつ、戦争という大事に従事せざるを得なかった生々しい姿が彷彿としました。
そして作品(「暗い波濤」)の大部分を占める予備士官の若者たちの生き様や心理の描写は総て、その一人である湯沢大尉の書簡あるいは終戦工作に従事した津島少将の回想録の形式をとった最後の二章のための序章とも言えるかもしれません。私には、著者の最も語りたかった事が最後の二章に凝縮されているように感じました。著名な海軍三部作も以前読んではいますが、この作品は阿川作品の中でも最も力のこもったものだと思います。
以下、覚書として同書より引用します。
・仮拘置所の管理者ホール大尉の湯沢に対する言
「私は君と同様、プロフェッショナルの軍人ではなく、大学で歴史を学んだ者だ。軍事法廷は君を裁く事が出来るが、法廷自身を裁ける者は神と歴史の他にない。歴史が二十年後に冷静さを取戻すことを私は信じてゐる。長い間National Archivesに眠ってゐたレコードは、一定の歳月ののち、屡々驚くべき事実を語り始める。その日のために、君は南洋の小さな島で何が起つたかを正しく書き残しておくべきではないか」
・かつて海鷲と賛美された、名パイロット月村少佐がしたためた津島少将への手紙
私は然し、アメリカ不信以上の日本人不信に陥り、自分でも困惑してをります。一時は町内で、海鷲月村少佐とか何とか言はれて、軍神なみの、有難迷惑みたいな奉られ方でしたが、今度帰つて来たら、近所の子供が顔を覚えてゐて、ヤア、戦犯が通りよらアと、小石を拾つて投げつけました。学校でさういう風に教へるものと見えます。極端から極端へ、掌を返したやうな変り方に唖然といたしました。知らん顔をしてをりましたが、涙が出るほど口惜しく思ひました。(中略)選挙も民主主義も興味がありません。自分の生涯は終つたやうな気がしてゐます。(中略)子供らの成人するまで世にかくれて生きのびます。
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阿川弘之全集〈第6巻〉小説6 |
| amazon価格:5250円 |
収録作品:
小説「暗い波涛」(下)
対談「舶来型海軍と大和民族的陸軍」
- カテゴリ: 日本文学一般
コメント:1
- 大谷のぶひで 2010年1月13日 11:59
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約30年、本棚の片隅に置かれていた「暗い波濤」。タイトルになぜか惹かれるものを感ぜず放置してあり、最近読了しました。時折ユーモアを交えた優しさと悲しみのない交ぜになった文体。大きな感銘を受けました。なぜこの本を購入したのか記憶がありませんが、作者とは一度だけ面識があり、優しさに溢れたまなざしが印象に残っています。戦争の悲惨さのなかで揺れ動く若者たちの苦悩や悲哀が心を打ちました。もっと早くに読めばよかった。
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